夢の手枕~Spero Dum Spiro~★跡地★:★思うこと・医学一般
本当のうつ病なら、SSRIなど抗うつ薬が基本。双極性障害なら気分安定薬(+抗精神病薬)が基本であり、抗うつ薬での単剤治療は原則として行いません。
しかし、なかなか双極性障害を見つけるのが難しいのです。
双極性障害、いわゆる躁うつ病では、患者さんはうつ病相の時に来院します。医者があまり話を聞かないと「うつですね」でSSRIなどの抗うつ薬を処方という流れになってしまいます。躁/軽躁の時は自発的に来院することはあまりないと思います。最近はプライマリケアでもうつは診断/治療できねばならないと言われているので、精神科以外の先生方も「うつを見たら双極性障害を疑え」と念じておく必要性があります。
なので、うつかな?と思ったら、必ず躁/軽躁のエピソードや混合状態があったかを聞かねばなりません。例えば、、、
「気分が落ち込む前の時期に、あまり寝なくても頑張れたことってありましたか?」
「気分が大きくなってしまって、本来のあなたならしないようなこと、例えば車を運転中に信号無視をしてしまったり、大きな買い物をしてしまったり、そういうことをしたことはありますか?」
「何回かお仕事を変えてる様ですけど、どういった事情からですか?」
「お仕事や学校では上手くやれてますか?上司や先生にも自信を持って意見を言えた時期はありましたか?」
「若い時、例えば高校生の時などは、気分の波というものはあった方ですか?」
「億劫だけれども、どこかイライラしている感じはありますか?」
などなど。以上の切り口から聞き"YES"であれば、さらに深く、さらに広げて聞く必要があります。
患者さんからのみでは多少心許ないところもあるので、ご家族にも必ず聞くようにしています。
精神科非専門医の先生方は、双極性障害かな?と思った場合、信頼できる専門医に送った方が良いかもしれません。
妊娠37週で嘔吐
診断、といえば日本にすっかり定着した感のある(研究用)診断基準たるDSM。しかし、この基準は躁/軽躁をかなり狭く採っているとの批判があります。自然経過で躁/軽躁がなかなか出てこない患者さんもおり、彼らをDSMで双極性障害と診断するのは無理が出てきてしまいます。挙げられる問題点は、抗うつ薬誘発性の躁/軽躁、抗うつ薬抵抗性の病状、家族歴や発症年齢、病前性格、状況依存性の気分変動などなど、これらを加味していない点。こういったものを含めて双極性障害としようじゃないかという動きが、AkiskalやGhaemiらから出てきています(Akiskalの言うスペクトラムとGhaemiの言うスペクトラムとでは多少意義が異なってはいますが)。
つまり、これまでは双� ��性障害が過少診断されてきたのです。しかし、最近は以上のようにスポットライトが当たったことにより、アメリカでは過剰診断されているのではないかとも言われています(そうなると、本当のうつ病に抗うつ薬が使われないという不利益があります)。一時期、成人の発達障害が話題になり、どんどんと診断されていった経緯があるので、その行き過ぎ傾向を辿ってしまうのかとも思ってしまいます。ただ、日本では相変わらず双極性障害は過少診断されているであろうというのが大方の意見。
というわけで、どこからどこまでを双極性障害と呼んでいいのか、これが目下の気分障害研究者の中で議論が進んでいます。
内海健先生が述べるように、特に双極性障害II型は、言うなれば人生を舞台にした疾患です。軽躁の� ��出鬼没さが指摘されており、病相として出現する場合もあれば、抑うつに混入、あるいは病気の形を取らず、様々なライフイベントに身をやつして展開することもあるのです。
抑うつ状態の中の双極性を挙げると以下の様になります。
初期の腰痛
1.抑うつの出現様式:不全性、易変性、部分性
2.比較的特異な症状:焦燥、聴覚過敏、関係念慮、行動化
3.comorbidityが高い:パニック障害、摂食障害、物質依存など
4.病前性格:マニー型成分の混入
5.抗うつ薬への反応:しばしば軽躁転、病相頻発、非定型的な反応
また、明確な病相が形成されにくく
1.不全性(症状が出揃わない)
2.易変性(症状が変動しやすい)
3.部分性(出現に場面依存性がある)
などがあり、典型的なうつ状態から考えると、どこかちぐはぐな印象をうけます。そして、典型的なうつとは異なり感情の表出が豊かなこともあります。また、うつ病相と軽躁病相との経過曲線がくっきりと出来にくく、混合状態は非常に起こりやすいとされています。うつ⇔軽躁の手の平を返したような展開。不安定であり、患者にとっても周囲にとっても性格の問題のように取り扱われてしまうところに悲しさの香りがします。
Akiskalによると、混合状態は
・容赦のない不機嫌とかんしゃく
・制止を背景とした精神運動性激越
・激しい性的興奮
・極度に疲れているのに頭の中では思考が駆け巡る
・頑固な不眠
・パニック発作様の浮遊した不安
・自殺についての強迫観念と衝動
を特徴とする様です。
こういったことを踏まえて「うつ」の患者さんに問診していく必要があるのです。横断的ではなく、病前性格や生活歴も聞き、厚みのある病歴とすることで、双極性障害が顔を出して来るのではないか、そう考えています。制止が強くなければ、許可を得てBSDSという診断スケールに記入してもらってそれを参考に問診をより掘り下げることも良い方法と思っています。
Ghaemiの提唱するBipolar Spectrum Disorderの診断基準なんてのもあります。これは以下から成っています。
色覚異常の赤ちゃんの双子
A.少なくとも1回以上の大うつ病エピソード
B.自然発生的な躁/軽躁病相はこれまでにない(現行診断基準を満たさない病相)
C.以下のうちいずれか1項目とDの少なくとも2項目以上(あるいは以下の2項目とDの1項目以上)があてはまる
1.第一度親族(親子と兄弟)における双極性障害の家族歴
2.抗うつ薬によって誘発される躁/軽躁の既往
D.Cの項目がなければ以下の9項目のうち6項目があてはまること
1.発揚性人格(抑うつ状態でない基準線においてマニー型や執着性格も含める)
2.反復性大うつ病エピソード(3回以上)
3.短い大うつ病エピソード(平均3ヶ月未満)
4.非定型うつ症状(DSM-IV:過眠・過食・鉛様麻痺・脱力感)
5.精神病性(精神病症状を伴う)大うつ病エピソード
6.大うつ病エピソードの若年発症(25 歳以下)
7.産後うつ病
8.抗うつ薬の効果減弱(wear-off)
9.3種類以上の抗うつ薬治療への非反応
これが最善かと言われると何ともと思えるところもありますが。。。Ghaemiも発見的定義と断っていますし、信頼性がきちんと確立していません。他の参考所見としては上記に挙げたcomorbidityや焦躁・聴覚過敏・行動化など。
スペクトラムとしてどんどん双極性障害が広がっていますが、スペクトラムの端っこにいるような患者さんに抗うつ薬を使うことが本当に良くないのかは、実は分かっていないのです。そして、スペクトラム診断が抗うつ薬抵抗性の理解につながるとは言いにくいという論文も出ています(Association Between Bipolar Spectrum Features and Treatment Outcomes in Outpatients With Major Depressive Disorder. Arch Gen Psychiatry 68,4 p351-60,2011)。何だか振り出しに戻った気分ですね。。。。。。。
上述のように、何でもスペクトラムだと言って単極のうつ病を双極性にして抗うつ薬を使わないという問題も引き起こされており、単極と双極の境界は本当に不鮮明。こんなことも精神科はまだまだ分かっていないのです。真摯に受け止めねばなりませんね。
自分は、どんなうつ病の患者さんでも、躁の成分、木村敏先生に倣って言うとintra festum成分ですが、それは混じっていると思います。昔から「うつ病の寛解期には普段よりちょっと元気になって、そこから元々の患者さんの状態になる」というようなことが言われていまして、この現象も混じっていた躁の成分を見ていたかもしれません。その混じりが大きいと気分安定薬が必要となる割合が高いのでしょうね。抗うつ薬は気分をよいしょおっと引き上げる薬なので、躁の混じりが大きい患者さんはそれによっていわゆる"躁転"を来たして生活に支障が出るのでは?と考えています。ただ、"躁の混じりが大きい"という表現。これの「どの辺りを大きいと取るか?」というのが難しいんです。これに過敏になってしまうと過剰診断、これに鈍感なら過小診断。難しい。。。今のところはDSMに則って、明らかな双極性障� ��を見逃さずに選択すべき薬剤を考える(もちろん患者さんにも説明して)というのが過剰にも過小にもならないのかも?????治療を開始してからも経過を追うことが重要というのは言うまでもありません。最近の「治療抵抗性のうつ=双極性障害」という風潮はやり過ぎ感がありますね。
今後の研究によって、より上質な診断基準が出来ることを願います。
ちなみに、NIRS(光トポグラフィー)はまだ研究段階です。幅広く臨床応用されるには時間がかかるでしょう。
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