[nuclear]国の暫定基準値は本当に高いのか?を考えてみた(食物編):地球のために今何ができるだろう?:So-netブログ
震災後、国から食物の放射能量の暫定基準値が発表されました。
2011/3/17に突然発表された基準値「飲食物摂取制限に関する指標」
例えば野菜や肉の放射性セシウム量は500Bq/kgが指標とされています。
これに対して「基準値が高すぎるのでは?」という声があります。
そこで、いったいどのくらいの放射能量なら妥当なのかを考えてみました。
皆さんの"自分基準"は何ベクレルですか?
[前提条件]
1. 1年間に食物からの内部被曝として、どこまで許容できるか考えました。
2. 許容できる内部被曝実行線量(mSv/年)として、0.3(ドイツ)、1、5(CODEX, WHO)、15の4つのモデルを考えました。
3. 内部被曝実行線量(mSv/年)毎および年齢グループ毎に、食物の食べても良い限界の放射能量を計算しました。
4. 「ドイツ放射線防護委員会による日本における放射線リスク最小化のための提言」に基づいて、セシウム137 : セシウム134 : ストロンチウム90 : プルトニウム 239 の割合を、100 : 100 : 50 : 0.5と仮定した食物を想定しました。(*1)
[計算式]
1年間の実行線量Sv=1年間の食物摂取量(kg/年) X 放射能量(Bq/kg) X 線量係数(Sv/Bq) (*1)(*2)
[計算結果]
長く残存するセシウムを基準にして計算した実行線量別の限界放射能量です。
1年間の内部被曝量(mSv/年)をどこまで許容すると、どれだけの放射能量(Bq/kg)まで食べても良いのか?の表です。
表1
(実行線量Aは計算過程での数値なので、気にしないでください。)
[個人的結論]
●1年間でどこまで内部被曝を許すのかをもとに考えてみます。
●公表・報道では必ずしも同位体別に放射能量を発表していませんし、国は137Cs+134Csを放射性セシウムとして扱っているようなので(*7)、137Csと134Csの合計値で考えます。
●原子炉からは未だに放射性物質が放出され、これがいつ収束するのかが全く見えていない状況ですが、とりあえず、1年後の2012年3月までのことを考えます。
もし我が家に乳児がいれば、年間の実行線量(1年間でどこまで内部被曝を許すか)は0〜0.3mSvになるようにがんばります。
表1から乳児の年間実行線量が0.3mSv以内にするためには、セシウム含有量が10Bq/kg以内の食品を選びます。
我が家が成人だけなら、同線量は0〜1mSvになるようにがんばります。
表1から成人の年間実行線量が1mSv以内にするためには、セシウム含有量が多くても51.3Bq/kg以内の食品を選びます。
妊婦さんなら、万が一を考えて限りなく被ばく0に近くなるようにします。
輸入食材を中心に献立すると思います。
胎児のときに5mSvに暴露され続けると、生まれた子どもに深刻な精神遅滞の可能性があるそうです。(*8)P.20
[国の暫定基準]
食物からの内部被曝が核種(グループ)毎に5mSv/年以下になるようにしたらしいです。(*7)
「原子力施設等の防災対策について」平成15年7月一部改訂 原子力安全委員会のP.119「飲食物摂取制限に関する指標について 「5-3 防護のための指標」の表3に示した値の算出についての考え方を以下に示す。」をどう解釈すればいいのか悩みます。
国の計算方法が定かではありませんので、発表された暫定基準値(*7)をもとに上記(ドイツ放射線防護協会)計算式で年間許容実行線量を計算してみます。
すると国の暫定基準の食物を食べ続けた場合、1年間でおおよそ5〜15mSv内部被ばくすることになってしまうのです。
国が具体的な計算式を示していないので、どんな計算で5mSv/年以下になったのかよくわかりません。(どこかにあるのかもしれませんが見つけられません)
乳児を例にとります。
15mSv/年を限界として計算
(15mSv/6mSv*100Bq/kg)=250Bq/kg
乳児:137Csで250Bq/kg
137Cs+134Cs=500Bq/kg
つまり、国のセシウム基準値500Bq/kgを含む食物を食べ続けた場合、他の核種(ストロンチウム、プルトニウム)も勘案して、15mSv/年の内部被曝を受けることになります。
セシウム137 : セシウム134 : ストロンチウム90 : プルトニウム 239 の割合を、100 : 100 : 50 : 0.5と仮定した場合、国の基準では食物だけで乳児が15mSv/年の内部被曝をしてしまいます。
これは、(汚染地域からの輸入を想定した)国際食品規格の3倍、ドイツ法律の50倍です。
外部被ばくや吸入による内部被曝のことも考えれば、食物の暫定基準値は高過ぎるのではないでしょうか?
<2011/5/31追記>
国の暫定規制値の算出について説明しているサイトがありました。(*9)
放射性セシウムに関しては、暫定規制値の算出には希釈効果の係数が使われていて、その値は0.5だそうです。
その意味は「事故直後は、周辺住民は地産の飲食物ばかり食べるが、時間が経てば遠方からの飲食物も入ってくるという想定だと思われる。」と解釈されています。
なので「希釈効果を含めなければ暫定規制値は現在の半分の値となる。」のだそうです。
つまり時間が経てば(遠方からの)まったく汚染されてない食物が食べられるという前提なのですよね?
現在関東のお店では、たとえ基準値以下であっても汚染食物が売られているのですから、なんだか納得できない係数です。
--国の暫定規制値に対する個人的感想--
1. 核種(グループ)毎に設定している実行線量が高すぎる。
(ヨウ素の等価線量で50mSv、セシウムの実行線量で5mSv)
2. 計算式に使っている希釈効果の係数(0.5)が、実情に合わないので、結果として規制値が高めの値になっている。
[CODEX委員会のガイドライン]
FAO及びWHOにより設置されたコーデックス委員会による国際食品規格があります。(*3)
「CODEX STAN No.193 1995 General Standard for Contaminants and Toxins in Food and Feed」のP.33に放射線量のガイドラインの表があります。
それぞれの核種が1mSv/年を超えない範囲で定められています。(*4)
記載されているすべての核種を合計するとInfants:約7mSv/年、Adults:約5mSv/年になります。(*5)
つまりCODEXは事故後1年間までは、汚染食物からの内部被曝量は、
幼児で年間7mSvまで、成人で年間5mSvまで許容しています。
放射能量のガイドラインレベルは高いですね。
例えば137Csは1000Bq/kgです。(*5)
見かけ上は日本の暫定基準値よりも高く見えます。
「内部被曝量が5mSv/年や7mSv/年なのにどうしてこんなに放射能量が高いのかな?」と不思議に思いました。
資料をよく読んでみてその理由が判りました。
このガイドラインでの計算式は以下の通りです。(*6)
the mean internal dose of public, E(mSv), due to annual consumption of imported foods containing radionuclides can be estimated using the following formula:
E = GL(A) · M(A)· eing(A) · IPF
GL(A) is the Guideline Level (Bq/kg)
M(A) is the age-dependent mass of food consumed per year (kg)
eing(A) is the age-dependent ingestion dose coefficient (mSv/Bq)
IPF is the import/production factor9 (dimensionless).
例えば幼児の137Csだけの1年間の内部被曝量は、以下の通りです。(*3)のP.36
内部被曝量(E) = 1000Bq/kg(GL) X 年間食物摂取量200kg(M) X 線量係数2.1E-5mSv/Bq(eing) X 輸入/消費係数(IPF)0.1 = 0.4mSv
ドイツ放射線防護協会の示した計算式と同じですが、IPFという係数をかけています。
IPFというのは輸入/消費係数で、ここではIPF=0.1として計算しています。
FAOによれば世界平均で輸入食品量は1/10になるからだそうです。(*6)
なので普通に実行線量を計算した時の1/10になります。
この計算式は、放射能事故などがあった場合の緊急時の汚染地域からの輸入を想定しています。(*6)
残り9割の食物は汚染されていないことが前提です。
汚染された食品のガイドライン値Bq/kgが高くても、残りの汚染されていない食品の割合が多いので、全体としての内部被曝量mSvは低く抑えられます。
だからこの<輸入を想定したガイドラインの数値>は高めとなるので、日本の国内流通食物の暫定基準値とは単純に比較できません。
[1mSv/年を仮定したとき]
年間の許容被ばく線量が1mSvなので、それをもとに参考程度に放射能量を計算してみました。
[ドイツの法律]
ドイツ放射線防護令第47条では住民1人あたりの被ばく線量の限界値は0.3mSv/年です。(*1)
付録[食品安全委員会の説明による「国際機関等の評価」のまとめ](*8)
注. IPF(輸入/消費係数)値は未確認ですので、基準にしている実行線量はわかりません。(ブログ主)
注. CODEXのガイドライン値は核種毎に決められていて、それぞれが1mSvを超えないように設定されています。すべての核種の合計では約5mSv(成人)または7mSv(幼児)となります。(*3)(*4)(*5)
<2011/7/29追記>
[実際の核種の割合はどうなのか?]
食品中の放射能量や土壌汚染の検査はヨウ素とセシウムしか発表されていません。
なので実際のところ、プルトニウムやストロンチウムなどがどれだけ食品に含まれているのかがわかりません。
でも参考になるものとして、原子炉1〜4号機から大気中に放出された試算値(Bq)を見つけました。(*10)
137Cs : 134Cs : 90Sr : 238Pu : 239Pu : 240Pu : 241Pu
=1.5E+16 : 1.8E+16 : 1.4E+14 : 1.9E+10 : 3.2E+9 : 3.2E+9 : 1.2E+12
=150 : 180 : 1.4 : 0.00019 : 0.000032 : 0.000032 : 0.012
≒100 : 120 : 0.9 : 0.0001 : 0.00002 : 0.00002 : 0.08 (137Csを100とした時)
Eは10のべき乗。E+1は10の1乗。
セシウム(Cs)の137と134の比率は「提言」とだいたいあってますね。
プルトニウム(Pu)は、ごく微量なので考えなくてもよいかもしれません。
ストロンチウム(90Sr)は、「提言」で仮定した50よりもかなり少ない0.9でした。
この「大気中への放出量試算値」をもとに、限度とする放射能量(Bq/kg)を計算しても面白いかもしれません。
[参考資料]
(*1)ドイツ放射線防護委員会による日本における放射線リスク最小化のための提言
2011年3月20日 ドイツ放射線防護協会 www.strahlentelex.de
(*2)「[nuclear]ドイツ放射線防護協会の提言を整理してみました」
(*3)農水省のサイトから「食品添加物に関するコーデックス一般規格」を辿れます。
1. ホーム > 消費・安全 > コーデックス委員会の「コーデックス食品規格リスト(コーデックス事務局ホームページ)[外部リンク]」をクリック
2. CODEX alimentariusのページ
「CODEX STAN No.193 1995 General Standard for Contaminants and Toxins in Food and Feed」(PDF)をクリック
(
(*4)上記資料(2. CODEX)のP.35"the 1st year after major radioactive contamination do not exceed 1 mSv. "
(*5)上記資料(2. CODEX)のP.37 TABLE2
(*6)上記資料(2. CODEX)のP.35
(*7)「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」 平成14年3月
P.35 別表3 "放射性セシウム"とだけ記載されており、(出典:「原子力施設等の防災対策について」)となっています。
「原子力施設等の防災対策について」平成15年7月一部改訂 原子力安全委員会
www.nsc.go.jp/shinsashishin/pdf/history/59-15.pdf
P.119 "指標値としては 放射能分析の迅速性の観点から134Cs及び137Csの合計放射能値を用いた。(略)各食品カテゴリー毎に134Cs及び137Csについての摂取制限指標を算出した。"
(*8)「放射性物質に関する緊急とりまとめ」2011年3月 食品安全委員会
(*9)安全科学研究部門 独立行政法人産業技術総合研究所
基準値の根拠を追う:放射性セシウムの暫定規制値のケース2011/05/23 岸本充生
基準値の根拠を追う:放射性ヨウ素の暫定規制値のケース2011/04/06 岸本充生
(*10)「表5 解析で対象とした期間での大気中への放射性物質の放出量の試算値(Bq)」P.13
東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故にかかる1号機、2号機及び3号機の炉心の状態に関する評価について
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[nuclear]ドイツ放射線防護協会の提言を整理してみました 2011-05-24
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[nuclear]食品汚染グラフを作ってみました(乳・肉・卵編)2011-05-21
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